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42 コラム特別編:よしだともこ先生より

2013/09/22 3:43 に ずきんはな が投稿   [ 2013/11/14 15:54 に oheso tori さんが更新しました ]
2013年09月07日掲載
【コラム特別編:よしだともこ先生より】

IT系、オープンソースに関わる方はよくよくご存知だと思います。
UNIX USERという技術書に連載されていた「ルート訪問記」の著者です。

現在では大学教授になられ、オープンソースカンファレンス@京都というイベントで、お子さんとともに活躍していらっしゃいます。
昔はもっともっと女性が少なかったITの世界の中で、燦然と女性として輝き、今もなお輝いていらっしゃるよしだ先生。
無謀にもコラムをお願いしましたところ、なんと速攻ご快諾を頂きました。 ありがとうございます!
そして今後、引き続きご協力いただけることになりました!

今回、子育て真っ最中の先生の子育て論をおうかがいしました。

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「子供とネットを考える会」をご覧のみなさん、はじめまして。

吉田智子(よしだともこ)と申しまして、現在は、京都にある女子大学で教員をしているものです。

学生時代は大学で英語を専攻したのですが、その後、

 たまたまコンピュータ関係の仕事をして、
 そこで知り合ったソフトウェア技術者と結婚して、
 コンピュータ雑誌のライターをしつつ、大学院にも行って・・

という流れの中で、大学の専任の教員になりました。数年前に「教授」という肩書きがもらえる程度に、年齢も重ねました。そして、大学で働くようになってから誕生した娘も、早いもので12歳になりました。

大学では、ネット社会関係の研究や授業を担当していていることもあり、親として自分のの子どもへのネット環境の与え方については、いろいろと考え続けてきました。

さっそく宣伝のようで恐縮ですが、

「オープンソースの逆襲」(吉田智子著、出版文化社)

という本の中にも、私のネットに関する経験や考えをいろいろと書かせていただいているので、読んでいただければと思いますが、より単純化して一言で書くと、次の3つが「私の子どもとネットに関するポリシー」だと言えます。

 (1)子どもと一緒にいるときは、メールやパソコンを使わない

 (2)子どもにケータイを与えない

 (3)情報収集にネットを使わせない

それぞれについて、少しだけ補足させていただきますね。

(1)の「自分が使わない」というのは、私がフルタイムで働いているからこそ、可能になったことだとは思います。仕事から帰って、娘と一緒にいる時間は、娘が12歳になった今なお、とても貴重だからです。

だから、ずっと自宅では「パソコンに電源を入れるのは娘が寝てから」と決めていましたし、ケータイのメールへの返事も、相手の人に失礼だと思いつつ、娘がそばにいない時まで保留にするか、急ぐ用事には電話で返答していました。急がない礼状などには、あえて郵便を使うようにしています。(親が手紙を書く姿を見ないかぎり、子どもは書くようにはならないと思うので。)

(2)のケータイ(スマホを含)に関しては、与える予定は今もありません。

(公衆電話が街角から消えた今、ケータイを持たないことは不便ですが、その分、工夫するようになると思うのです。すぐにケータイで誰かに聞くのではなく。)

ただし、本人が必要になって、アルバイトをしてとか、お年玉を工面するなどして、自分で毎月の支払いも含めて持てる時期が来れば、反対するつもりはありません。

(3)に関しては、「情報収集は図書館や自宅の本、雑誌、新聞から」を原則としていますが、どうしてもの場合は、電子辞書だけは自由に使ってもよいことにしています。「ネットで検索してきなさい」という学校の宿題が出た時は、私のノートパソコンをリビングに持ってきて、一緒にネットを使っています。

上述の3つのポリシーに関して、娘の側がどう思っているかについてですが、(2)と(3)に関して、「我が家のポリシー」として、はっきりと娘に告げたのは、実際にケータイを持つ同級生がでてきたり、「ネットで調べてきなさい」という宿題が出るようになった、2年ほど前でした。

それに対して「うん、わかってる」と娘は返事しています。「なぜダメなの?」と聞かれたこともありましたので、「子どもの時期には使ってない方が、それを手にした時にそれを武器にできるから。私は自分の子どもに、ネットがないと生きられない大人になって欲しくないから」と答えました(詳しくは後述)。

もともと、我が家の場合は、(1)のポリシーによって、家庭ではネットが必要とされていない中で育ってきたわけなので、(2)と(3)についても、まだそれほど不自由は感じていないようです。

もちろん、(2)と(3)のポリシーが通用しなくなる時期は近いうちに来るでしょう。でもその頃には、本人自身が先に書いた、

 「子どもの時期には使ってなかったからこそ、それを手にした時に武器にできる」

時期になっていると思うのです。

この「子どもの時期には使ってなかったからこそ、それを手にした時に武器にできる」という感覚は、ネットを大人になってから使うようになった世代の方には、理解していただけるのではないでしょうか。たとえば、こんな感じのものです。

 ・図書館でぐるぐると本を探し回った経験があるからこそ、
  蔵書検索が便利という感覚

 ・地元の図書館では手に入らない情報に悔しい思いをしたからこそ、

  ネット検索で手に入る情報に感動する感覚

 ・世の中で出回っている話には、ガセネタがあることを知っているからこそ、

  ネットの中の間違いやダマシが存在するのは当然だという感覚

 ・実際の会話や一緒にする活動の、楽しさや感動や大変さに比べれば、
  メールでのやりとりやゲームは、とてもあっさりしているという感覚
  (どちらが好きかはさておき、子育てはもろに「前者」の活動ですよね)

いろいろ書いてしまいましたが、私のように、大人になるまでネットが存在しなかった世代にとっては当たり前である「この感覚」に、ネットが利用できるという便利な武器が加わることで、それ自体が、確実に「プラスアルファの力」になっていると思うのです。

一方、子どもの時期からネットが存在する生活を中で暮らしていると、「ネット込みで(ケータイ込みで、ゲーム込みで)普通に生活できる力」を身につけていくととになると思います。

それが現在の生活とも言えるのですから、それはそれでよいのでしょう。ただ、私はたまたま、自分がネットを「プラスアルファの力」にできたことがよかったと思っているので、同じ感覚を、自分の子どもにも身につけてほしいなぁと強く思ったわけです。

この3つのポリシーは、理想論だとは思います。しかも、私が働いているから(職場でネットを利用しているし、娘と過ごす時間はもともと少ないから)こそ可能だったことはわかっています。それでも、私も少し我慢をしたり、少し努力をしたことも確かです。

たとえば、休日など、図書館に行くよりネットで調べた方が楽なのがわかっていつつ、わざわざ図書館に足を運んだり、メールの方が楽なのがわかっていて、ハガキや封書で礼状を書いたりしているのですから。

さて、私のこの理想論(3つのポリシー)の話を聞いた方から、以下の質問をされることがあります。

 ・子どもの頃からコンピュータに慣れておく方が、将来、有利なのでは?

はい、そうですね。子どもの頃からネットに慣れ親しむ必要性を否定している私ですが、コンピュータに慣れ親しんではいけないとは思ってません。特に、今の子どもが身につけておくと有利な「コンピュータ関係の能力」は、確実に存在すると思います。

具体的には、「ネットワークリテラシー能力」や「プログラミング能力」です。ただ、これらは、早い時期からただコンピュータを使っていればよいのではなくて、必要な時期に、適切な方法を使えば、効率よく身につけることができます。(我が家の大黒柱さんも、私が社内恋愛していた頃に「優秀なプログラマだ」と、上司からよく絶賛されていましたが、プログラミングを始めたのは18歳のようですし。もともとの論理的思考能力が高かったのだとは思いますが。)

まず、「ネットワークリテラシー能力」を効率よく学ぶ方法については、「新インターネット講座 ~ネットワークリテラシーを身につける~」(有賀妙子、吉田智子著、北大路書房)

をはじめとして(また、また宣伝になってしまってすいませ~ん)、身につける方法論は確立しています。

しかし、もう一つの「プログラミング能力」を身につける方法については、特に、小中高校生が楽しく、効率よく身につける方法については、まだまだ試行錯誤中だと思います。今、日本で使われている普通のプログラミング教育の方法だと、普通の女子中高生のほとんどは敬遠して当たり前、というようなものだと思えます。

私自身は、プログラミングを学び始めたのが22歳で、もう少し早い時期がよかったなぁと思っていることもあり、中高生の時期に楽しく学べないものかとずっと考えていました。大学生向けのプログラミングの授業も、一生懸命に工夫しているものの、毎年、苦戦しているのが実情です。やっぱりもう少し若い方が有利なのだろうなぁと。

そのような背景もあり、今年度(2013年度)から4年計画で、「プログラムによる計測と制御を学ぶための女子生徒向け教材の開発と普及」というタイトルの研究を始めています。これについては、今まさに、試行錯誤をスタートしたところです。

試行錯誤の試みについては、以下のページに文章を書いています。

超小型で安価なパソコンの可能性にワクワク(2013年05月29日)

プログラミング教育へのお知恵拝借(2013年07月13日)

「オープンソースカンファレンス京都」への出展報告(2013年08月06日)

この試行錯誤は、これからも続きます。この文章を読んでくださったみなさんのご意見も、ぜひ参考にさせていただきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

また、今後も、時々、「子供とネットを考える会」に文章を書かせていただければ幸いです。

京都ノートルダム女子大学 人間文化学部 人間文化学科 

教授 吉田智子 tyoshida@notredame.ac.jp